ランチの仕込みが一段落した午前十一時、スマートフォンに見慣れない通知が届きます。海外のお客様から英語のメッセージで「今夜四人で入れますか?」。返信しようとしたところで電話が鳴り、団体予約の相談が始まります。気づいたときにはメッセージから二時間が経っていて、相手からは「別のお店にしました」と返事が来ていました。
日本ではお客様とのやり取りにLINEが使われることが多いものの、海外からの旅行者、日本で暮らす外国籍の方、海外の取引先にとってはWhatsAppが普段使いの連絡手段です。こうした問い合わせが個人のアカウントに届き始めたら、WhatsAppビジネスアカウントに切り替えるタイミングです。無料で使える「WhatsApp Business」アプリを入れれば、店の名前、営業時間、自動返信、よく使う定型文をすぐに用意できます。
この記事では、WhatsAppビジネスアカウントの基本と作り方を説明します。あわせて、本当の課題である「忙しい時間帯と営業時間外にどう返事をするか」、そして機械に任せず人が対応すべき場面についても、小さなお店や宿、個人事業主の目線で整理しました。
WhatsAppビジネスアカウントとは:通常版との違い
WhatsAppには大きく分けて三つの使い方があります。
- 通常のWhatsApp:個人向けのアプリです。友人とのやり取りが前提なので、店の情報を載せる場所がなく、仕事とプライベートが混ざりがちです。
- WhatsApp Businessアプリ:小規模な事業者向けの無料アプリです。一般に「ビジネスアカウント」と呼ばれているのは、たいていこちらを指します。
- WhatsApp Business Platform(API):問い合わせの量が多い企業向けの仕組みです。通常は対応サービスを経由して導入し、メッセージの種類に応じた利用料がかかります。料金体系は変わることがあるので、検討するときは最新の条件を確認してください。
個人店や小規模な宿、職人さんであれば、まずはBusinessアプリで十分です。Businessアプリでできる主なことは次のとおりです。
- ビジネスプロフィール:店名、業種、住所、営業時間、ウェブサイトを表示できます。
- あいさつメッセージ:初めて連絡してきた人に自動で送るメッセージです。
- 不在メッセージ:営業時間外や手が離せないときに自動で返すメッセージです。
- クイック返信:「アクセス」「料金の目安」「キャンセル規定」などの定型文を、短い呼び出し語で挿入できます。
- ラベル:「予約確定」「返信待ち」「要折り返し」などでチャットを分類できます。
- カタログ:メニューや商品、プランを写真付きで紹介できます。
注意したいのは、一つの電話番号を通常版とBusinessアプリで同時には使えないことです。店の番号はどちらで使うのかを、最初に決めておきましょう。
WhatsAppビジネスアカウントの作り方(手順)
準備は、落ち着いて進めれば短時間で終わります。次の順番で進めると迷いません。
- 使う電話番号を決める。 店の携帯番号のほか、固定電話の番号も使えます。固定電話の場合は、SMSの代わりに音声通話による認証を選びます。個人の番号を使うと、将来スタッフに引き継ぐときに困るので避けた方が無難です。
- WhatsApp Businessアプリを入れて番号を認証する。 通常版で使っていた番号を移行する場合は、案内に従えばこれまでのチャット履歴も引き継げます。移行の前にバックアップを取っておくと安心です。
- プロフィールを埋める。 店名は看板と同じ表記にします。営業時間、住所、予約ページのURLも入れ、英語の一文紹介を添えておくと、海外のお客様が安心します。
- あいさつメッセージと不在メッセージを日英で作る。 「いつ返事が来るのか」を必ず書きます。
- クイック返信を五つほど用意する。 実際に多い質問から順に登録します。
- ラベルを決める。 種類を増やしすぎず、毎日実際に使うものだけに絞ります。
- 店のどこに番号を載せるかを決める。 ウェブサイト、予約サイトのプロフィール、名刺、ショップカードなどです。QRコードを用意すると、来店時に登録してもらいやすくなります。
不在メッセージの例
「お問い合わせありがとうございます。ただいま営業時間外のため、翌朝十時以降に順番にご返信します。本日のご予約は、お電話でも承っています。」
英語版も同じ内容で用意しておきます。大切なのは、返事が来る時刻と、急ぎのときの連絡方法をはっきり書くことです。
ありがちな一日:小さな宿の場合
京都で客室数の少ないゲストハウスを営んでいる、という場面で考えてみます。オーナーは一人で、繁忙期だけアルバイトの方が入ります。
- 朝七時:チェックアウトの準備中に、ヨーロッパからWhatsAppが届きます。「来月の空室はありますか」。手が離せないので、不在メッセージが「十時以降に返信します」と自動で返します。
- 十時:一息ついて返信します。クイック返信で料金の目安とキャンセル規定を送り、相手のチャットに「返信待ち」のラベルを付けます。
- 十四時:清掃の最中に、同じ相手から「駅からどう行けばいいですか」。アクセスの定型文を送ればすぐに済みます。
- 十六時:チェックインが重なる時間帯です。電話が二件、WhatsAppが三件届き、ここで返信が後回しになります。
- 二十二時:別のお客様から「到着が深夜になりそう」と連絡が来ます。オーナーはすでに休んでいて、気づいたのは翌朝でした。
設定だけで楽になるのは、朝と昼の場面です。一方で、夕方の「同時に重なる時間」と夜の「誰も見ていない時間」は、アプリの機能だけでは解決できません。多くのお店がつまずくのはここです。
返信が遅れると何を失うのか
メッセージで問い合わせる人は、電話をかける人と同じように、その場で答えがほしいと思っています。しかも海外のお客様は、比較している複数の宿やお店に同時に送っていることも珍しくありません。返事が遅れると、次のようなことが起こりがちです。
- 先に返事をくれた別のお店で予約が決まってしまう
- 「本当に営業しているのか」と不安を持たれる
- 夜遅くの到着連絡を見落とし、当日に慌てることになる
- 未読が積み重なり、翌朝の作業が返信だけで埋まってしまう
影響の大きさは業種や時期によって違います。それでも、「問い合わせが来ているのに、対応できる人がいない時間帯」があるなら、そこは手当てをしておく価値があります。
よくある失敗と避け方
- 個人のスマートフォンで店の番号を兼用する。 休みの日にも通知が鳴り続けますし、スタッフへの引き継ぎもできません。店用の端末か、店の番号を使いましょう。
- 不在メッセージに「すぐ返信します」と書く。 実際に返信できる時刻を書く方が、信頼につながります。
- 定型文を丸ごと貼るだけで終わる。 相手の名前や日付を一言添えるだけで、印象は大きく変わります。
- 翻訳アプリの結果をそのまま送る。 料金、日付、キャンセル条件といった大事な部分は、数字を目で確かめてから送ります。
- 電話とWhatsAppで予約台帳が別々になっている。 ダブルブッキングのもとです。どの窓口から入った予約も、一つの台帳にまとめましょう。
人が対応すべき場面
自動返信や定型文は便利ですが、何でも任せてよいわけではありません。次のような内容は、店の人が直接対応してください。
- 苦情やトラブル:部屋や料理への不満、忘れ物、破損などです。まずは人が受け止めることが大切です。
- 返金やキャンセル料の交渉:規定どおりの説明だけでは収まらないことがあります。
- アレルギーや体調に関わること:食材や設備について、確かな答えを出せる人が回答します。
- 団体予約や貸し切り、法人の契約:条件の調整が必要になります。
- 急ぎの安全に関わる連絡:道に迷った、体調が悪い、といった連絡には、メッセージではなく電話で対応しましょう。
大まかには、空室や空席の確認、営業時間、アクセス、予約の受付といった「答えが決まっている質問」は仕組みに任せます。そして「判断や気持ちへの配慮がいる話」は人が引き取ります。このように分けると、無理なく回ります。
まとめ:今日やること
まずは今日、WhatsApp Businessアプリを入れて、プロフィールと日英の不在メッセージだけでも設定しましょう。次の一週間は、届いた質問をメモしておき、多かったものからクイック返信に登録します。そのうえで、「夕方の重なる時間」と「夜間」に誰が、どう答えるかを決めます。ここまで済めば、WhatsAppビジネスアカウントは単なる連絡先ではなく、予約の入り口として働き始めます。
業種ごとの使い方はRinghumのブログでも紹介しています。宿泊施設ならホテル・宿向けのページ、飲食店なら飲食店向けのページもあわせてご覧ください。
よくある質問
WhatsAppビジネスアカウントは無料で使えますか?
WhatsApp Businessアプリは、ダウンロードも基本的な機能の利用も無料です。小規模なお店や個人事業主なら、まずはアプリで十分でしょう。問い合わせの量が多い企業向けのWhatsApp Business Platform(API)は、メッセージの種類に応じた利用料がかかり、通常は対応サービスを通して導入します。最新の条件は導入前に確認してください。
固定電話の番号でも登録できますか?
できます。認証のときにSMSではなく音声通話を選ぶと、固定電話に認証コードが届きます。お客様にすでに知られている店の番号をそのまま使えるのが利点です。ただし、メッセージの送受信はアプリを入れたスマートフォンなどで行うので、店でその端末を誰が管理するかを先に決めておきましょう。
今使っている個人のWhatsAppから切り替えられますか?
同じ電話番号をBusinessアプリに移すことはできます。案内に従えば、チャット履歴も引き継げます。ただし、一つの番号を通常版とBusinessアプリで同時に使うことはできません。プライベートの連絡も続けたい場合は、店用に別の番号を用意して、仕事とプライベートを分ける方が後々楽になります。
日本ではLINEが主流ですが、WhatsAppも必要ですか?
国内のお客様が中心であれば、LINEだけで足りる場合も多いです。一方で、海外からの旅行者、外国籍のお客様、海外の取引先がいるお店にとって、WhatsAppは相手が普段使っている連絡手段です。両方を用意する場合は、どちらから入った予約も同じ台帳で管理し、取りこぼしや重複を防ぎましょう。
Ringhumについて:Ringhumは、お店の電話に二十四時間応答するAI受付です。空き状況の確認や予約、伝言を受け付けるほか、WhatsAppでのお問い合わせにも答えます。夕方の忙しい時間帯や夜間など、人が手を離せないときの窓口を補う仕組みです。苦情や返金の相談のように人の判断が必要な内容は、要点をまとめて店の方に引き継ぎます。