夕方の仕込みの最中に電話が鳴ります。出てみると、海外からのお客様が英語で「WhatsAppで予約の相談はできますか?」と聞いてきます。国内のお客様とは普段使っているメッセージアプリでやり取りしていても、海外のお客様の多くはWhatsAppを日常の連絡手段にしています。旅館、飲食店、ツアー事業者、外国人居住者が多い地域のサロンや工務店でも、同じ場面が増えています。
そこで候補になるのが WhatsApp ビジネスアカウント です。個人用のWhatsAppとは別に、店舗や事業者向けに用意されたアカウントで、店の名前・住所・営業時間を載せたプロフィール、営業時間外の自動返信、よく使う返答の定型文、メニューやプランを見せるカタログなどが使えます。小規模な事業者向けのアプリは、基本機能を無料で使えます。
この記事では、通常版との違い、開設の手順、実際の一日の流れ、よくある失敗、そして「メッセージではなく人が電話で対応すべき場面」まで、店を回しながら無理なく運用するための考え方をまとめます。
WhatsApp ビジネスアカウントとは:通常版との違い
WhatsAppには大きく分けて三つの使い方があります。
- 通常のWhatsApp:個人同士の連絡用。店の連絡に使うと、私用のやり取りと混ざってしまいます。
- WhatsApp Business アプリ:小規模事業者向けの無料アプリ。スマートフォンにインストールして、店の番号で登録します。多くの個人店や小さな宿にはこれで十分です。
- WhatsApp Business Platform(API):問い合わせ件数が多い企業や、予約システム・顧客管理システムと連携したい事業者向けの仕組みです。会話やメッセージの種類に応じた利用料がかかり、外部サービスを通じて導入するのが一般的です。料金体系は国や用途で変わるため、導入前に最新の条件を確認してください。
ビジネスアプリで使える主な機能は次のとおりです。
- ビジネスプロフィール:店名、業種、住所、営業時間、ウェブサイト、説明文を表示できます。
- あいさつメッセージ:初めて連絡してきたお客様に自動で返す一言。
- 不在メッセージ:営業時間外や休業日に自動で送る返信。
- クイック返信:「アクセス」「料金の目安」「キャンセル規定」など、よく聞かれる内容の定型文。
- ラベル:「予約確定」「返信待ち」「要確認」などで会話を整理できます。
- カタログ:メニュー、宿泊プラン、施術メニューなどを写真付きで見せられます。
日本の店舗でWhatsAppが役立つ場面
国内のお客様とのやり取りは、たいてい別のメッセージアプリや電話が中心です。WhatsAppを「すべてのお客様向けの窓口」にする必要はありません。役立つのは主に次のような場面です。
- 海外からの宿泊予約や、来日前の事前相談
- 訪日客からの飲食店の予約、アレルギーや食事制限の確認
- 外国人居住者が多い地域での修理・リフォームの見積もり相談
- 時差があるため、相手の都合のよい時間に返信できるやり取り
電話と違い、文章で残るので、日付・人数・要望の聞き間違いが減ります。翻訳機能を使えば、英語が得意でないスタッフでも落ち着いて返信できます。一方で、返信が遅れると「放っておかれた」と感じさせやすいのも事実です。導入するなら、誰がいつ見るのかを最初に決めておくことが欠かせません。
WhatsApp ビジネスアカウントの始め方
小さな店がビジネスアプリで始める場合の、基本的な流れです。
- 使う電話番号を決める。一つの番号は、通常版とビジネス版の両方には同時に登録できません。個人で使っている番号はそのままにして、店用の番号を用意するのがおすすめです。固定電話の番号でも、音声通話による認証で登録できる場合があります。
- 専用のスマートフォンを用意する。個人の端末と分けると、休みの日の通知や、スタッフ交代時の引き継ぎが楽になります。
- アプリをインストールして番号を認証する。届いた確認コード(SMSまたは音声通話)を入力します。
- ビジネスプロフィールを埋める。店名は看板や予約サイトと同じ表記にし、住所・営業時間・定休日を正確に入れます。英語の説明文も一行あると親切です。
- あいさつメッセージと不在メッセージを設定する。日本語と英語を併記し、「何時ごろ返信するか」を必ず書きます。
- クイック返信を五つほど作る。アクセス、チェックイン時間、キャンセル規定、駐車場、支払い方法など、実際によく聞かれる質問から始めます。
- カタログを必要な分だけ載せる。全商品ではなく、問い合わせが多いメニューやプランに絞ります。
- 店内やウェブサイトで案内する。予約確認メールや英語版のページに「WhatsAppでもお問い合わせいただけます」と添えます。
例:京都の小さな旅館の一日
客室数の少ない家族経営の旅館を想像してください。女将と息子の二人で、予約・接客・清掃を回しています。
- 朝7時:朝食の準備中。前夜のうちに、欧州のお客様から「到着が夜9時を過ぎそう」とWhatsAppが届いていました。不在メッセージで「翌朝8時以降に返信します」と伝えてあったので、相手も安心して待っています。
- 朝8時半:朝食の片付けが終わり、息子が返信。クイック返信の「遅い時間のチェックイン案内」を送り、玄関の暗証番号の受け渡し方法を確認します。会話には「到着遅め」のラベルを付けます。
- 午前11時:清掃中に電話が鳴りますが、手が離せません。折り返そうと思っていたら、別の問い合わせに追われて忘れそうになります。
- 午後2時:アジアからのお客様がカタログで部屋タイプを見て、「家族四人で泊まれる部屋はどれか」と質問。写真付きで答えられるので、電話で説明するより早く伝わります。
- 午後5時:チェックインが重なる時間帯。WhatsAppの返信は止め、目の前のお客様に集中します。
- 夜9時半:遅着のお客様が到着。事前にやり取りが残っていたので、名前と要望をすぐに確認できました。
この一日で分かるのは、WhatsAppは「文章で済む用件」を整理するのに強い一方、手が離せない時間帯の電話までは拾えないということです。メッセージと電話、それぞれの受け皿を用意しておくと、取りこぼしが減ります。宿泊施設での電話対応については、宿泊施設向けのページでも考え方を紹介しています。
開設前に決めておくこと・避けたい失敗
よく見かける失敗は、機能の問題ではなく運用の問題です。
- 返信担当が決まっていない:「誰かが見ているだろう」は、誰も見ていない状態を生みます。担当者と確認する時間帯を決めましょう。
- 不在メッセージに返信時間がない:「ありがとうございます」だけでは、相手はいつまで待てばよいか分かりません。
- 予約の確定をメッセージだけで済ませる:宿泊や貸し切りなど金額が大きい予約は、予約台帳や予約システムに必ず反映し、二重予約を防ぎます。
- 個人の番号で始めてしまう:あとから分けるのは手間がかかります。最初から店用の番号を使いましょう。
- 一斉送信を乱発する:許可を得ていない相手への宣伝は、迷惑と受け取られるだけでなく、利用規約上の問題になることもあります。
- 個人情報の扱いを決めていない:パスポート情報や支払い情報をメッセージで受け取らないなど、店としてのルールを決めておきます。必要な対応は国や業種で異なるため、不安があれば専門家に確認してください。
人が対応すべき場面
メッセージや自動返信は便利ですが、すべてを任せられるわけではありません。次のような場合は、スタッフが電話や対面で直接対応するべきです。
- 苦情やトラブル:文章のやり取りは感情の行き違いが起きやすく、声で謝意を伝えるほうが早く収まることが多いです。
- 体調や安全に関わる内容:重いアレルギー、急な体調不良、事故や設備の故障などは、すぐに人が判断します。
- 返金・キャンセル料の交渉:規定の説明は定型文でもできますが、例外を認めるかどうかは人が決めます。
- 高額・複雑な依頼:貸し切り、団体旅行、工事の見積もりなどは、電話で細部を詰めるほうが確実です。
- 相手が文章でのやり取りに困っている様子のとき:短い通話一本で解決することがあります。
逆に、営業時間、アクセス、空き状況の確認、予約内容の確認といった定型的な用件は、メッセージや自動対応に向いています。
まとめ:まずは小さく始める
WhatsApp ビジネスアカウントは、海外のお客様との接点がある店にとって、手軽に始められる窓口です。最初の一歩としては、次の三つで十分です。
- 店用の番号でビジネスアプリを登録し、プロフィールを正確に埋める
- 日英併記の不在メッセージと、よく聞かれる質問のクイック返信を作る
- 返信担当と確認時間を決め、予約は必ず台帳に反映する
そのうえで、手が離せない時間帯の電話をどうするかも一緒に考えておくと、メッセージと電話の両方で取りこぼしを防げます。飲食店の方は飲食店向けのページも参考にしてください。
よくある質問
WhatsApp ビジネスアカウントは無料で使えますか?
小規模事業者向けのWhatsApp Business アプリは、基本機能を無料で利用できます。プロフィール、自動返信、クイック返信、ラベル、カタログなどが含まれます。一方、件数の多い企業がシステム連携に使うWhatsApp Business Platform(API)は、メッセージの種類などに応じて利用料がかかります。条件は変わることがあるため、導入前に最新の内容を確認してください。
今使っている個人のWhatsAppをビジネス用に切り替えられますか?
可能です。同じ番号を通常版からビジネス版へ移行でき、多くの場合はトーク履歴も引き継げます。ただし一つの番号は両方のアプリに同時登録できないため、切り替えると個人用としては使えなくなります。私用の連絡と店の連絡を分けたいなら、最初から店用の番号を用意するほうが運用は楽になります。
固定電話の番号でも登録できますか?
多くの場合、固定電話の番号でも登録できます。SMSを受け取れない番号では、音声通話で確認コードを受け取る方法を選びます。登録後は、その番号に紐づいたアプリをスマートフォンで使う形になります。店の代表番号をそのまま使えば、お客様にとっても分かりやすい窓口になります。
複数のスタッフで同じアカウントを使えますか?
ビジネスアプリには、別の端末をリンクして同じアカウントを使う機能があります。ただし同時に複数人が返信すると、内容が食い違うおそれがあります。ラベルで「対応中」「返信済み」を分けたり、時間帯ごとの担当を決めたりして、誰がどの会話を受け持つかを明確にしておくと安心です。
日本のお客様にもWhatsAppを案内すべきですか?
国内では別のメッセージアプリが主流のため、日本のお客様全員に案内する必要はありません。WhatsAppは海外からのお客様や外国人居住者向けの窓口として位置づけ、国内のお客様には普段の連絡手段を残すのが現実的です。窓口を増やしすぎると確認漏れが起きやすいので、店で無理なく見られる範囲にとどめましょう。
Ringhumについて:Ringhumは、店の電話に24時間対応するAI電話受付です。手が離せない時間帯や営業時間外の電話に応答し、予約や注文の受付、伝言の記録を行い、WhatsAppでの応答にも対応します。苦情や複雑な相談など、人が判断すべき用件はスタッフへ引き継ぐ前提で使うのが向いています。設定方法はヘルプセンターでご確認いただけます。