夕方の最後の訪問を終えて記録を片付け、オンコール当番の携帯を持って帰宅する。夕食の途中で着信があり、出てみると「明日の訪問、何時でしたっけ」というご家族からの確認だった。夜中の二時には、看取り期の利用者さんのご家族から、呼吸の様子が変わったという電話が入る。訪問看護の夜間電話対応は、急がない電話も命に関わる電話も、同じ一台の携帯に同じ音で鳴ることが多いものです。
オンコール当番の負担を本当に重くしているのは、実は緊急の電話そのものより「出てみるまで緊急かどうかわからない」ことです。どの着信にも身構えるので眠りが浅くなり、翌日の訪問にも疲れが残ります。
この記事では、緊急の電話を確実に看護師へつなぎながら、急がない電話を朝に回す仕分けの考え方と、ステーションで今日から進められる体制づくりの手順をまとめます。
訪問看護の夜間電話対応がつらくなる理由
夜間の電話は、大きく分けると三種類あります。
- 利用者さんの状態に関する電話:発熱、痛み、呼吸の変化、転倒、カテーテルや点滴のトラブル、看取り期の変化など。看護師の判断が必要です。
- 急がない連絡:翌日の訪問時間の確認や変更、衛生材料の相談、ケアマネジャーや病院からの伝言、請求や書類の問い合わせ。
- そもそも対応不要な電話:営業電話、間違い電話、新規の問い合わせで朝で十分なもの。
一つ目は看護師が出るべき電話です。問題は、二つ目と三つ目も同じ番号にかかってくることです。代表番号を夜間はオンコール携帯へ転送している場合、ステーション宛てのあらゆる電話が当番の枕元で鳴ることになります。
夜間の電話が多すぎることのコスト
具体的な件数はステーションの規模や利用者さんの状態によって大きく違いますが、どこでも共通して起きることがあります。
- 睡眠が途切れる:一本の電話で目が覚めると、そこから寝つけないことがあります。翌日は運転して訪問に回る仕事なので、疲れは安全にも関わります。
- 当番を引き受けられる人が減る:オンコールのつらさは採用や定着の話題に必ず出てきます。当番が一部の職員に偏ると、さらに負担が集中します。
- 本当に緊急の電話への集中力が落ちる:急がない電話が続いた後の深夜の着信は、どうしても対応が雑になりがちです。
- 伝言が抜ける:寝ぼけた状態で受けた「明日の時間変更」は、メモされずに朝の申し送りから漏れることがあります。
つまり、急がない電話を減らすことは看護師の楽のためだけではなく、緊急対応の質を守ることにもつながります。
ある訪問看護ステーションの一夜(例)
看護師数名の小さなステーションを想像してみてください。利用者さんには、状態が心配なときの「緊急連絡用番号」と、それ以外の「ステーション代表番号」の二つを案内しています。夜間、緊急連絡用番号は当番の携帯に直接つながり、代表番号は自動応答で用件を受け付ける設定です。
- 18時40分:代表番号に、ご家族から「明日の訪問を午後にずらせないか」という電話。自動応答が名前・利用者名・希望の時間帯を聞き取り、「翌朝、担当者から折り返します」と伝えて伝言を残す。当番の携帯は鳴らない。
- 20時15分:代表番号に居宅介護支援事業所のケアマネジャーから、担当者会議の日程調整の連絡。これも伝言として記録される。
- 21時30分:営業電話。用件を聞いた時点で終了。
- 23時50分:緊急連絡用番号に、在宅酸素を使っている利用者さんのご家族から「息が苦しそう」との電話。当番看護師が直接受け、状態を聞き取って訪問を判断する。
- 翌2時10分:代表番号に、別の利用者さんのご家族から「熱があるようで心配」との電話。代表番号の自動応答では、体調に関する内容を聞いた時点で緊急連絡用番号へかけ直すよう案内し、意識がない・呼吸が止まっているなどの場合は119番へ連絡するよう伝える設定にしてある。ご家族はすぐに緊急連絡用番号へかけ直し、当番看護師が対応する。
- 翌8時30分:朝の申し送りで、夜間の伝言三件を一覧で確認し、それぞれ担当者が折り返す。
この夜、当番の携帯が鳴ったのは看護師の判断が必要な二回だけでした。ポイントは、代表番号に体調の電話がかかってきたときに、確実に緊急の窓口へ誘導する流れを用意していることです。
夜間の電話対応体制を整える手順
- 一か月分の夜間着信を振り返る:当番の記録や着信履歴から、どんな用件が何時ごろに来ているかを書き出します。件数を正確に数えなくても、傾向がつかめれば十分です。
- 「看護師が出るべき電話」を言葉で定義する:利用者さん・ご家族からの体調・症状・医療機器に関する電話は、内容の大小にかかわらずすべて看護師へ、と決めます。
- 番号を分ける:緊急連絡用番号と代表番号を分け、契約時の説明書類や連絡先カードにどちらをいつ使うかをはっきり書きます。
- 代表番号の夜間対応を決める:留守番電話にするのか、自動応答で用件を聞き取るのか。いずれにしても、体調の話が出たら緊急連絡用番号と119番を案内する文言を必ず入れます。
- 朝の確認の流れを決める:夜間の伝言を誰が何時に確認し、誰が折り返すかを決めておきます。伝言を受けるだけで放置されるのが一番の失敗です。
- 利用者さん・ご家族に繰り返し説明する:一度の説明では浸透しません。訪問時に連絡先カードを見せながら確認するのが確実です。
- 数か月ごとに見直す:誤って代表番号に体調の電話が来ていないか、伝言の抜けはないかを定期的に確認します。
なお、24時間対応の体制に関する加算の要件などは制度改定で変わることがあります。体制を変える前に、最新の要件と自治体の考え方を確認してください。
やってはいけないこと
- 機械や事務担当に症状の判断をさせる:「それくらいなら朝まで様子を見てください」と言えるのは看護師だけです。自動応答や電話代行が症状の重さを判断する設計は避けてください。
- 緊急の番号を一本化しすぎて迷わせる:ご家族が夜中にどこへかければいいか迷う状態は危険です。緊急時の番号は一つ、はっきりと示します。
- 伝言の折り返しを曖昧にする:「朝に連絡します」と伝えたなら、必ず連絡します。信頼を失うのはここです。
- 当番以外が誰も状況を知らない:夜間の対応内容は必ず記録し、朝に共有します。
看護師が必ず出るべき電話
迷ったら看護師へ、が原則です。特に次のような電話は、仕組みに任せず当番看護師が直接受けてください。
- 利用者さんの体調や症状の変化に関する電話すべて
- 看取り期の利用者さんのご家族からの電話
- 医療機器・カテーテル・点滴などのトラブル
- ご家族が動揺していて、用件がはっきりしない電話
- 医師や病院からの指示・連絡
自動応答が役に立つのは、事務的な連絡や伝言のように、朝に対応しても誰も困らない電話です。この線引きをはっきりさせることが、安全に負担を減らす前提になります。
まず今週やること
最初の一歩は、先月の夜間着信を当番の記憶と着信履歴から書き出し、「看護師が出るべきだった電話」と「朝で十分だった電話」に分けてみることです。後者がほとんどないなら、今の体制で問題ありません。後者が多いなら、番号を分けて代表番号の夜間対応を見直す価値があります。職員会議で一覧を見せるだけでも、当番の負担が数字ではなく実感として共有されます。
よくある質問
夜間の代表番号を留守番電話にするだけではだめですか?
留守番電話でも急がない伝言は受けられます。ただ、録音を聞かずに切るご家族もいて、体調の相談が録音に残ったまま朝まで気づかれない危険があります。留守番電話にする場合は、応答メッセージの冒頭で緊急連絡用番号と119番を必ず案内し、夜間にも録音を確認する運用を決めておくと安心です。
自動応答が利用者さんの症状を聞いて判断することはできますか?
判断させるべきではありません。症状の重さや受診の必要性を判断できるのは看護師です。自動応答は、体調の話が出た時点で緊急連絡用番号や119番へ案内する役割に限定し、事務的な連絡や伝言の受付に使うのが安全な使い方です。
高齢のご家族が番号の使い分けに戸惑いませんか?
戸惑う方はいます。そのため、連絡先カードに「具合が悪いときはこちら」と大きく一つだけ書き、電話機の近くに貼ってもらうなど、迷わない工夫が大切です。訪問のたびに確認し、代表番号にかかってきても必ず緊急の窓口へ誘導される流れにしておけば、使い分けを間違えても危険は小さくなります。
小規模のステーションでも体制を変える意味はありますか?
あります。職員が少ないほど当番が回ってくる頻度が高く、一本の不要な電話の負担が大きくなります。まずは一か月分の夜間着信を振り返り、朝で十分な電話がどれくらいあるかを確認してから、必要な分だけ仕組みを変えるのが現実的です。
Ringhumでできること:Ringhumは、代表番号にかかってくる電話に24時間応答し、訪問時間の変更希望やケアマネジャーからの連絡などを伝言として受け付けるAI電話受付です。症状の判断はしないため、訪問看護では体調に関する電話を緊急連絡用番号や119番へ案内し、看護師が直接受ける緊急の窓口と組み合わせる使い方が前提になります。設定の考え方はヘルプセンター、費用は料金ページでご確認いただけます。