夕方6時、最後の打ち合わせを終えて事務所の電話を留守番電話に切り替える。翌朝出勤すると、着信履歴には知らない番号がいくつも並んでいるのに、留守電のメッセージはゼロ。弁護士事務所を運営していれば、こうした朝は珍しくないはずです。
法律相談の電話は、かける側にとって勇気のいる一本です。離婚、相続、借金、交通事故、職場のトラブル。昼間は周りの目があって話せず、仕事が終わってから、あるいは家族が寝静まってから、ようやく受話器を取る人が少なくありません。そこで機械的な応答メッセージが流れると、多くの人は何も残さずに切り、検索結果に並んでいる次の事務所に電話をかけます。
弁護士事務所の24時間電話対応といっても、弁護士が夜通し電話番をする必要はありません。大切なのは「誰が、どこまで、どう受けるか」を事前に決めておくことです。この記事では、夜間・休日の電話を取りこぼさずに受けるための選択肢と具体的な手順、そして必ず人間の弁護士が出るべき電話の見分け方を整理します。
時間外にかかってくる電話の中身
まず、営業時間外の電話にどんな種類があるかを把握しておくと、対応の設計がぐっと楽になります。多くの事務所では、おおむね次の四つに分かれます。
- 新規の相談希望:初回相談の予約をしたい、費用を知りたい、自分のケースを扱っているか確認したい、という電話。件数としては最も多くなりがちです。
- 既存の依頼者からの連絡:相手方から書面が届いた、期日の時間を確認したい、書類を受け取った、といった報告や確認。
- 緊急の連絡:家族が逮捕された、配偶者から暴力を受けて家を出た、明日差押えがあると言われた、など時間との勝負になるもの。
- それ以外:営業電話、間違い電話、他の窓口と勘違いした問い合わせ。
この四つは、求められる対応がまったく違います。新規相談は「きちんと受け止めて、予約か折り返しにつなぐ」ことが大事です。既存依頼者は「確実に担当へ伝える」こと。緊急連絡は「すぐに人へつなぐ」こと。全部を同じ留守電で受けているから、取りこぼしが起きるのです。
電話を取りこぼすと事務所が失うもの
一番わかりやすい損失は、新規の依頼です。法律問題を抱えた人は、複数の事務所に続けて電話をかけることがよくあります。最初に話を聞いてくれた事務所に相談予約を入れれば、それ以上は探さないのが自然です。夜に一度つながらなかっただけで、その人が翌朝あらためてかけてくれる保証はありません。
既存の依頼者についても、影響は小さくありません。不安なときに連絡がつかないと「この先生は大丈夫だろうか」という気持ちが芽生えます。相手方からの連絡や期日に関わる情報が翌営業日まで伝わらないと、対応が後手に回ることもあります。
一方で、逆方向のコストもあります。弁護士が自分の携帯に全部を転送して夜も休日も出ていると、疲れがたまり、私生活が削られ、日中の仕事の質にも響きます。営業電話や間違い電話で夜中に起こされるのは、誰にとっても割に合いません。目指すのは「全部に自分で出る」ことではなく、「全部を受け止め、本当に必要なものだけ自分に届く」状態です。
24時間電話対応の主な選択肢
弁護士や職員の携帯へ転送する
追加の契約がいらず、すぐに始められます。ただし負担が特定の人に集中しやすく、出られなかった電話はやはり取りこぼします。少人数の事務所ほど長続きしにくい方法です。
電話代行・秘書代行サービスに任せる
人のオペレーターが事務所名で電話を受け、用件を聞いて伝言を送ってくれます。人間ならではの柔らかい応対が魅力です。一方で、対応時間帯や料金体系はサービスごとに大きく異なります。深夜や休日は対象外だったり、別料金だったりすることもあるので、契約前の確認が欠かせません。予約の確定まで任せられるかどうかも、サービスによって違います。
AI電話受付を使う
AIが時間を問わず電話に出て、用件の聞き取り、相談予約の受付、伝言の作成を行います。同時に何本かかってきても待たせず、聞き取る項目を事務所側で細かく決められるのが特徴です。RinghumのようなAI電話受付は、決まった型のある電話を大量にさばくのは得意ですが、気持ちに寄り添って長く話を聞くことや、法的な判断はできません。その線引きを前提に使う道具です。
留守番電話だけにする
費用はかかりませんが、冒頭で触れたとおり、法律相談の電話をかけてくる人の多くはメッセージを残しません。ほかの方法を補う役割にとどめるのが無難です。
実例:ある小さな法律事務所の一日
地方都市にある、弁護士2名・事務職員1名の事務所を想像してください。受付時間は平日9時半から18時。時間外の電話はAI受付が受け、緊急時だけ当番弁護士の携帯に転送するルールにしています。
- 7時50分:出勤前の時間帯に、父親を亡くしたばかりの女性から電話。相続について相談したいとのこと。受付は氏名、連絡先、相談分野、相手になりそうな親族の名前を聞き取り、木曜午後の空き枠に初回相談を仮予約しました。相手方の名前を聞いておくのは、利益相反の確認を事前に済ませるためです。
- 12時20分:職員が昼食で外出中に、離婚事件の依頼者から「相手方の代理人から書面が届いた」と電話。受付は書面の中身には触れず、届いた日と依頼者の様子を要約して担当弁護士に伝言を送りました。
- 19時40分:交通事故の被害者から、保険会社の提示額に納得できないという相談。本人の希望で、翌朝10時台に折り返す約束をしました。
- 23時15分:「夫が今夜逮捕された」という家族からの電話。事前に決めた緊急キーワードに当たるため、受付はすぐ当番弁護士の携帯へ転送しました。受付自身は、見通しについて一切話していません。
- 翌朝9時半:職員が夜間の伝言一覧を確認し、折り返しの順番と仮予約の確定作業を進めます。
この一日で、弁護士が夜中に起こされたのは、本当に必要だった一件だけです。それ以外の電話も、一本も「なかったこと」になっていません。
24時間電話対応を弁護士事務所で整える手順
仕組みを入れる前に、次の順で決めておくと失敗が減ります。
- 時間外の着信を振り返る:直近の着信履歴を見て、どの時間帯に、どんな種類の電話が多いかをざっくり把握します。
- 「緊急」の定義を書き出す:逮捕・勾留、身の危険、翌日に迫った差押えや期日など、人につなぐ条件を具体的な言葉で決めます。
- 当番と連絡手段を決める:緊急時に誰の携帯へつなぐのか、その人が出られなかったら次は誰か、まで決めておきます。
- 聞き取る項目を決める:氏名、連絡先、折り返しに都合のよい時間帯、相談分野、相手方の氏名、事務所を知ったきっかけ。必要以上に踏み込んだ事情は電話口では聞かないようにします。
- 受付が言ってはいけないことを決める:勝てるかどうか、見通し、法的な助言、他の依頼者に関する情報。案内してよいのは、所在地、駐車場、事務所が公表している相談料、持ち物などに限ります。
- 予約の扱いを決める:利益相反の確認が済むまでは「仮予約」とし、確定の連絡は事務所から入れる、といった流れにします。
- 記録の扱いを確認する:録音や伝言がどこに保存され、誰が見られるのか。弁護士の守秘義務や個人情報の取り扱いに照らして問題がないか、導入前に確かめます。
- 自分で何本かかけてみる:緊急のケース、新規相談、既存依頼者の連絡を想定して試し、答え方や伝言の内容を調整します。
避けたい落とし穴
- 受付が相談に答えてしまう:人でもAIでも、「それなら大丈夫ですよ」といった一言は危険です。法的な判断は弁護士がする、という線を必ず守ります。
- 「24時間対応」と書きながら実態が伴わない:電話は24時間受け付けていても、弁護士が対応するのは翌営業日、という場合はそのとおりに表示します。広告に関するルールに照らしても、誤解を招く書き方は避けるべきです。
- 緊急の転送先があいまい:当番が決まっていない、携帯の電源が切れている、では仕組みがあっても機能しません。
- 折り返しが遅い:受け付けた電話に翌日中に折り返さなければ、つながらなかったのと同じ印象を与えます。
- 伝言が読みにくい:要点のない長文の伝言は見落としのもとです。用件、緊急度、希望の折り返し時間が一目でわかる形にします。
人が電話を取るべきとき
仕組みで受けられる電話は多くありますが、次のような場合は人間、できれば弁護士が直接出るべきです。
- 家族が逮捕・勾留された、取り調べを受けている
- 暴力やつきまといなど、身の危険がある(差し迫った危険があるときは、まず警察への通報を案内します)
- 翌日など、ごく近い期限が迫っている
- 相談者が強く動揺していて、落ち着いて話せない
- 既存の依頼者の案件で、方針に関わる重大な事態が起きた
- 報道機関や裁判所など、事務所としての判断が必要な相手からの連絡
逆に、相談予約、場所や相談料の案内、既存依頼者からの簡単な報告などは、受付に任せても困ることはほとんどありません。弁護士の時間は、上のリストの電話のために取っておけばよいのです。
まとめ:今週やること
まずは時間外の着信履歴を見直し、「緊急」の定義と当番のルールを紙一枚に書き出してください。それができれば、転送、電話代行、AI受付のどれを選ぶにしても、事務所に合った形がはっきり見えてきます。ひとりで事務所を回している方は、個人事業主向けのページも参考になるはずです。
よくある質問
夜間の電話にAIが出ると、相談者は嫌がりませんか?
人によって受け止め方は違います。ただ、誰も出ずに留守電が流れるよりは、用件を聞いてもらえて折り返しの約束ができる方が安心する人は多いはずです。最初に「事務所の受付です」と名乗り、翌朝弁護士から連絡することをはっきり伝えると、不安は和らぎます。直接話したい人のために、緊急時に人へつながる道も残しておきましょう。
AI受付は法律相談に答えられますか?
答えるべきではありません。AI受付の役割は、用件を聞き取り、予約や伝言につなぐことです。勝ち筋や見通し、具体的な対処法といった法的な判断は、必ず弁護士が行います。受付が答えてよい範囲(所在地、相談料、持ち物など)と、答えてはいけない範囲を事前に設定し、導入前に試しの電話で確かめておくのが安全です。
守秘義務や個人情報の面で問題はありませんか?
どの受付方法でも、電話の内容は依頼者や相談者の秘密に関わります。録音や伝言の保存先、閲覧できる人、保存期間を事前に確認し、事務所の守秘義務と個人情報の取り扱い方針に合うかを判断してください。電話口で聞く内容を、予約と連絡に必要な最小限にとどめることも大切です。
刑事事件の緊急連絡にも対応できますか?
対応の入口にはなれます。「逮捕」「警察」などの言葉が出たら当番弁護士の携帯へすぐ転送する、というルールを決めておけば、夜中でも人につなげます。ただし受付自身が状況を判断したり助言したりはしません。当番が確実に出られる体制づくりは、事務所側で整えておく必要があります。
Ringhumについて:Ringhumは、事務所に代わって24時間電話に出るAI電話受付です。相談予約の受付、伝言の作成、緊急時の転送、WhatsAppでの対応ができます。法的な判断はしないため、弁護士の仕事を置き換えるものではなく、電話の入口を受け持つ道具です。料金は料金ページで、設定方法はヘルプセンターでご確認いただけます。