朝の受付は、開院前から忙しくなります。保険証の確認、問診票の受け渡し、会計。そのあいだにも電話は鳴り続けます。「今日は何時まで診てもらえますか」「予約を一つずらしたいのですが」「駐車場はありますか」。目の前の患者さんを待たせて電話に出るか、電話を鳴らしたままにするか。受付スタッフは一日に何度もこの判断を迫られています。
こうした事情から、クリニックの電話対応にAIを使う医院が出てきました。AIの電話受付は、診療時間の案内や予約の受付・変更、伝言の受け取りのように、毎日同じ形でくり返される電話をかなりの部分まで引き受けられます。一方で、症状の相談や急を要する連絡はAIに判断させてはいけません。人につなぐ仕組みをあらかじめ用意しておく必要があります。
この記事では、任せてよい電話と任せてはいけない電話の線引きをまとめます。あわせて、小さな医院の1日の流れ、導入の手順、避けたい失敗も紹介します。
クリニックの電話対応が回らなくなる理由
クリニックの電話がつらいのは、本数が多いからだけではありません。かかってくる時間が偏るからです。
- 開院直後:「今日診てもらえるか」という問い合わせが集中します。受付の対面業務もいちばん混む時間帯です。
- 昼休み:患者さんは自分の休憩時間に電話をかけます。医院の昼休みと重なるため、つながりません。
- 診療終了間際から夜:仕事帰りに予約を取ろうとする人がかけてきますが、すでに受付は閉まっています。
電話に出られなかったとき、患者さんの行動は大きく二つです。かけ直してくれるか、別の医院を探すか。新患の場合は、つながらなかった時点で近くの別のクリニックに電話するのも自然な流れです。数字で測りにくい分、見過ごされやすい損失といえます。
スタッフの側にも負担があります。電話で何度も手が止まると、受付のミスや待ち時間の長さにつながります。電話応対を理由に受付の仕事を辞める人がいる、という話も珍しくありません。
AIに任せられる電話、任せてはいけない電話
AIに任せるかどうかは、決まった答えを返せる電話かどうかで考えるとわかりやすくなります。
任せやすい電話
- 診療時間、休診日、場所、駐車場、持ち物などの案内
- 予約の受付、変更、キャンセル(空き枠のルールが決まっている場合)
- 「折り返してほしい」という伝言の受け取り(名前、電話番号、用件を聞き取る)
- 健診や予防接種の受付期間など、事前に決まっている案内
- 時間外や昼休みの一次受付
必ず人が判断すべき電話
- 症状の相談:「熱が下がらないけれど受診すべきか」といった判断は医療行為に近く、AIに答えさせてはいけません。
- 急を要する連絡:息苦しい、意識がおかしいなど、緊急性がうかがえる内容です。AIは様子を判断せず、救急車(119番)や地域の救急相談窓口を案内する、またはスタッフにすぐ転送する。この流れを決めておきます。
- 検査結果や病状の説明:本人確認や医師の判断が必要です。
- クレームや強い不安を抱えた方:聞き取り自体はAIもできますが、早めに人が対応したほうが落ち着きます。
- 他の医療機関や薬局からの連絡:内容によっては即時の対応が必要です。
迷う電話は人に回す。最初はこのくらい慎重な設定から始めて、慣れてきたら任せる範囲を少しずつ広げていくのが安全です。
ある内科クリニックの1日(例)
ここでは、医師1人と受付スタッフ2人の小さな内科クリニックを想定します。AIに電話の一次受付を任せた場合の1日です。
- 8:30(開院前):前夜の時間外にAIが受けた予約3件と伝言2件が一覧で届いています。受付スタッフは内容を確認し、折り返しが必要な1件に電話をかけます。
- 9:00(開院直後):「今日は何時まで診てもらえますか」「予約なしでも大丈夫ですか」という電話が続きます。AIが決められた案内どおりに答えるので、受付は目の前の患者さんの対応に集中できます。
- 10:40:「子どもが急に吐いて、ぐったりしている」という電話が入ります。AIは事前の設定に従って、すぐにスタッフへ転送しました。看護師が様子を聞き取り、受診の案内をします。
- 12:30(昼休み):会社員の方から、来週の予約変更の電話が来ます。AIが空き枠を確認して変更を受け付けました。スタッフは休憩を中断せずに済みます。
- 15:00:近くの薬局から処方内容の問い合わせが入ります。これは人が受けると決めていたので、AIは用件と連絡先を聞き取り、すぐに受付へ回しました。
- 18:30(診療終了後):翌朝の予約を取りたい電話が入ります。AIが受け付け、翌朝の一覧に加わります。
この例でも、スタッフが電話から完全に解放されるわけではありません。変わるのは、人が出るべき電話に人が出られる余裕が生まれることです。
クリニックの電話対応にAIを入れる手順
導入でいちばん大切なのは、機械の設定よりも、医院としてのルールを言葉にする作業です。
- 電話の中身を1〜2週間書き出す:どんな用件が、どの時間帯に多いかを受付でメモします。正確な集計でなくてもかまいません。
- 任せる電話と人が出る電話を分ける:前の章の分け方を土台に、自院の事情に合わせて決めます。
- 緊急時の流れを決める:どんな言葉が出たら転送するのか。誰の電話に転送するのか。時間外はどう案内するのか。ここは院長と必ず相談します。
- 案内する内容を整える:診療時間、休診日、予約のルール、持ち物などを、患者さんに伝わる言葉で用意します。
- 予約の扱いを決める:AIが直接予約を確定させるのか、仮受付にしてスタッフが確定させるのかを決めます。
- 個人情報の扱いを確認する:患者さんの情報をどこに保存し、誰が見られるのか。医療情報の扱いに関する決まりは国や地域によって異なるため、提供元に確認し、必要に応じて専門家にも相談します。
- 小さく始めて見直す:まず時間外や昼休みだけ任せてみます。会話の記録を見ながら、案内の言い方や転送の条件を調整します。
避けたい失敗
- 何でもAIに答えさせる:症状の相談に一般論で答えてしまう設定は危険です。答えられないことは「答えない」と決めておきます。
- 人につながる出口がない:「スタッフと話したい」と言われたら、転送か折り返しの約束ができるようにしておきます。
- 伝言を見ない:AIが受けた伝言を誰が、いつ確認するかを決めておかないと、折り返しが漏れます。
- 案内内容の更新を忘れる:臨時休診や年末年始、お盆の診療日を変えたら、AIの案内も同じ日に直します。
- 患者さんに知らせない:電話の最初に、自動応答であることを一言伝えておくと、戸惑いが減ります。
まとめ:まずは「時間外と昼休み」から
クリニックの電話をAIに任せるなら、最初の一歩は、もともと誰も出られない時間帯からがおすすめです。時間外と昼休みなら、取りこぼしていた電話を拾うだけなので、今の受付の流れを大きく変えずに済みます。そのうえで、緊急時の転送ルールを院長と決め、案内内容を整えてから、日中の一次受付へ広げていきます。
よくある質問
高齢の患者さんはAIの電話に戸惑いませんか?
戸惑う方はいます。最初に自動応答であることを伝え、ゆっくりはっきり話す設定にしておくと、話しやすくなります。それでも「人と話したい」と言われたときに転送や折り返しができれば、不満は小さく抑えられます。かかりつけの高齢の方が多い医院では、日中は人が出る時間を残しておくのも一つの方法です。
症状の相談が来たら、AIはどう対応するのですか?
医療的な判断はさせず、人につなぐのが基本です。緊急性がうかがえる言葉が出たらスタッフに転送するか、時間外であれば119番や地域の救急相談窓口を案内する、と事前に決めておきます。どの言葉を転送の合図にするかは、院長と一緒に決めてください。
予約システムと連携しないと使えませんか?
連携しなくても使えます。AIが予約の希望を聞き取ってスタッフが確定させる「仮受付」の形なら、今の予約台帳のままで始められます。連携すれば空き枠の確認まで任せられますが、まずは仮受付で運用に慣れてから考えても遅くありません。
歯科や整骨院でも同じように使えますか?
予約の受付や変更、診療時間の案内が中心の医院なら、考え方は同じです。歯科なら急な痛みや腫れ、整骨院なら施術後の強い痛みなど、業種ごとに「人に回す電話」の中身が変わります。そこを自院に合わせて決めておくことが大切です。
Ringhumについて:Ringhumは、24時間電話に出て予約や伝言を受け、WhatsAppでのやり取りにも対応するAI電話受付です。クリニックでは、時間外や昼休みの一次受付、診療時間の案内、予約の受付・変更を任せられます。症状の相談や緊急の連絡は、決めたルールに従ってスタッフにつなぎます。料金は料金ページ、設定の進め方はヘルプセンターでご確認いただけます。