朝9時、診療開始と同時に電話が鳴り始めます。受付では保険証の確認をしながら受話器を取ります。最初の電話は「今日診てもらえますか」、次は「来週の予約を変えたい」、その次は「熱があるんですが、行っても大丈夫ですか」。クリニックの電話は、性質の違う問い合わせが短い時間に次々と重なるのが普通です。
こうした状況でも、受付スタッフの誰が出ても同じ品質で答えられるようにするための道具が、クリニックの電話対応マニュアルです。この記事では、マニュアルに入れるべき項目、そのまま使える例文、症状の相談のように受付が判断してはいけない電話の線引き、そして作り方の手順をまとめます。
新人が入った週も、ベテランが休んだ日も、患者さんへの答えがぶれない。マニュアルを作るいちばんの目的はそこにあります。
クリニックの電話が難しい理由
クリニックの電話対応がほかの業種より難しいのは、次の事情が重なっているからです。
- 用件の種類が多い:予約、変更、キャンセル、診療時間、アクセス、持ち物、検査結果、薬、診断書などの書類、業者からの連絡まであります。
- 忙しい時間と重なる:電話が集中しやすいのは、開院直後や昼休み明けなど、窓口も混んでいる時間帯です。
- 医療判断との境目がある:「この症状で受診すべきか」は、受付が答えてよい質問ではありません。
- 個人情報を扱う:電話の相手が本人かどうか、確かめにくい場面があります。
ここが整理されていないと、電話に出られずに患者さんが別の医院へ流れたり、窓口の待ち時間が延びたり、誤った案内をしてしまったりします。どれも数字にはなりにくいものの、評判と信頼にじわじわ響く損失です。
クリニックの電話対応マニュアルに入れるべき項目
1. 基本の受け方
第一声、保留、終わり方を統一します。
- 第一声:「お電話ありがとうございます。〇〇クリニック受付の△△でございます」
- 保留するとき:「確認いたしますので、少々お待ちいただけますか」。長くなりそうなら「確認してこちらから折り返してもよろしいでしょうか」に切り替えます。
- 終わり方:「お大事になさってください。失礼いたします」。相手が切ってから受話器を置きます。
2. 用件別の対応フロー
よくある用件ごとに、確認する項目と答え方を決めておきます。
- 新規予約:氏名(フリガナ)、生年月日、電話番号、初診か再診か、受診したい内容(概要のみ)、希望日時。
- 予約の変更・キャンセル:氏名と生年月日で予約を特定し、変更後の日時を復唱します。
- 診療時間・休診日・アクセス:院内で統一した答え方を書いておきます。臨時休診の情報もここに追記します。
- 持ち物:保険証やマイナンバーカード、お薬手帳、紹介状など、自院で確認しているものを書いておきます。
- 発熱時の来院方法:入口や待合を分けているか、事前連絡が必要かなど、院の方針をそのまま書きます。受付の判断で変えないことが大切です。
3. 本人確認と個人情報
検査結果や受診歴について、電話でどこまで伝えるかは院の方針で決め、マニュアルに明記します。家族からの問い合わせの扱い、本人確認に使う項目(生年月日など)も具体的に書いておきます。迷ったら「担当者から折り返します」に統一すると安全です。
4. 伝言と引き継ぎのルール
伝言メモには、受けた日時、受けた人、相手の氏名と連絡先、用件、緊急度、折り返しの要否を必ず残します。誰が、いつまでに折り返すかも決めておきます。
受付が判断してはいけない電話:人に引き継ぐ線引き
マニュアルでいちばん重要なのは、受付が答えてよいことと、看護師や医師に回すべきことの線引きです。
看護師・医師に引き継ぐ電話
- 症状の相談(「様子を見ていいか」「受診すべきか」)
- 薬の飲み方や副作用の相談
- 検査結果の内容についての質問
- 他の医療機関からの問い合わせ
すぐに救急を勧める電話
強い胸の痛み、息苦しさ、意識がおかしいといった訴えには、迷わず119番への連絡を勧めます。どの症状なら救急要請を勧めるのか、院長と相談して具体的に書き出し、受付の判断に任せないようにしてください。地域の救急相談窓口の案内も、あわせて載せておくと安心です。
責任者に回す電話
苦情、会計や返金をめぐるトラブル、取材や営業の電話などです。
受付が絶対に口にしてはいけないのは「大丈夫だと思いますよ」「明日まで様子を見ても平気です」のような言葉です。善意でも医療判断になってしまいます。
ある内科クリニックの一日(例)
架空の、ある街の内科クリニックの一日です。
- 8:45 開院前から電話が鳴ります。留守番電話には「診療開始は9時です」と流れるだけで、用件は残りません。
- 9:00〜9:30 窓口対応と電話が重なり、何本か取りこぼします。折り返そうにも、相手の番号しか分かりません。
- 11:30 「子どもが熱を出した」という電話。新人スタッフが「それなら午後に来てください」と答えかけたところで、ベテランが気づいて看護師に回しました。
- 13:00 昼休み中の電話は誰も取れません。
- 15:00 「先週の血液検査の結果を教えて」という電話。本人確認の手順が決まっておらず、受付が困ってしまいます。
- 18:30 診療終了後も、明日の予約をしたい電話が続きます。
マニュアルを整えたあとは、こう変わります。11:30の電話は「症状の相談は看護師へ」のルールで迷わず回せます。15:00の電話は「結果は医師から折り返し」と統一した答え方で済みます。開院前、昼休み、診療後の電話は、時間外にどう対応するかを決めることで、用件と連絡先が残るようになります。
電話対応マニュアルの作り方:5つのステップ
- 1〜2週間、電話の記録をつける:時刻、用件、対応した人、困ったかどうかを簡単にメモします。
- 用件をグループに分ける:予約、変更、問い合わせ、症状相談、その他。多い順に並べます。
- 答え方を院長と確定する:特に発熱時の案内、検査結果、家族からの問い合わせの扱いは、必ず医師の承認をもらいます。
- 引き継ぎ基準を書く:「この言葉が出たら看護師へ」「この症状なら119番を勧める」という形で具体的に書きます。
- 1枚にまとめて電話の横に置く:詳細版とは別に、すぐ見られる要約を用意します。臨時休診やルール変更のたびに更新し、少なくとも季節ごとに見直します。
よくある失敗
- 長すぎて読まれない:分厚い冊子より、1枚の早見表と用件別のページのほうが使われます。
- 医療的な言い回しを受付に任せる:答え方は院長が決め、受付はその通りに伝えます。
- 時間外が決まっていない:留守番電話だけでは、誰が何の用件でかけてきたのか分かりません。
- 作って終わり:ルールが変わったのにマニュアルが古いままだと、かえって誤案内の原因になります。
よくある質問
電話で症状を聞かれたら、受付はどう答えればいいですか?
受付は受診の要否を判断せず、「看護師に代わります」「医師から折り返します」と引き継ぐのが基本です。ただし、強い胸の痛み、息苦しさ、意識の異常などの訴えがあれば、すぐに119番への連絡を勧めます。どの症状でどう案内するかは院長と事前に決め、マニュアルに書いておきましょう。
診療時間外の電話はどうすればいいですか?
留守番電話で診療時間を流すだけだと、予約や変更の用件が残りません。用件と連絡先を残してもらい、翌朝に誰が折り返すかを決めておくのが最低限です。予約の受付まで時間外に済ませたいなら、AI電話受付のように時間外も電話を受けられる仕組みを検討する価値があります。
検査結果を電話で伝えてもいいですか?
院の方針次第ですが、受付が電話で内容を伝えるのは避け、医師や看護師からの説明に統一するクリニックが多いはずです。電話で扱う場合も、本人確認の方法、家族からの問い合わせの扱い、伝えてよい範囲を明文化しておく必要があります。迷ったら「担当者から折り返します」に統一するのが安全です。
AI電話受付はクリニックに向いていますか?
予約、変更、キャンセル、診療時間や持ち物の案内のように答えが決まっている電話には向いています。一方で、症状の相談や検査結果、苦情は人が対応すべき電話です。AIには定型の用件を任せ、医療判断が絡む電話はスタッフに確実に回す。そうした役割分担ができるかどうかが判断の分かれ目です。
まとめ:まず1週間、電話の記録をつけることから
クリニックの電話対応マニュアルは、立派な冊子である必要はありません。明日から1週間、かかってきた電話の用件を記録してみてください。多い用件の答え方を院長と決め、「受付が判断しない電話」の線引きを書き出す。それだけで、受付の迷いは大きく減ります。そのうえで、開院前、昼休み、診療後の電話をどうするかを決めれば、取りこぼしの多くは防げます。
Ringhumでできること:RinghumはAIの電話受付です。昼休みや診療時間外も含めて24時間電話に応答し、予約の受付や変更、診療時間などの定型の案内、伝言の記録を行い、WhatsAppでのやり取りにも対応します。症状の相談や医療判断が必要な電話をAIが判断することはありません。そうした電話は伝言としてスタッフに引き継ぐ設計です。設定方法はヘルプセンターを、費用は料金ページをご覧ください。