朝の診療が始まって間もなく、採血の準備をしていると受付の電話が鳴ります。受付スタッフは窓口で保険証の確認中。仕方なく看護師が手袋を外して受話器を取ると、「今日の午後、空いてますか」という予約の問い合わせでした。小さなクリニックでは、こうした場面が一日に何度も起きます。
クリニックの看護師の電話対応は、ほとんどの場合「誰の担当でもないから、手が空いていそうな人が出る」という形で始まります。ところが実際に手が空いている人はいません。電話そのものが悪いのではなく、どの電話を誰が受けるかが決まっていないことが、看護業務を細かく分断している原因です。
この記事では、かかってくる電話を種類ごとに仕分け、看護師が本当に出るべき電話だけを残すための考え方と手順をまとめます。規模や診療科、地域によって事情は違うので、自院に合わせて読み替えてください。
クリニックで看護師が電話対応に追われる理由
看護師が電話に出ることになる背景には、たいてい次のような事情があります。
- 受付が一人体制で、窓口対応と電話が重なる。 会計や問診票の受け渡しをしている間は、電話に出られません。
- 「症状の相談かもしれない」電話は看護師に回される。 内容を聞くまでわからないため、念のため看護師に、という流れが定着します。
- 折り返しの約束が積み上がる。 「後でかけ直します」が溜まり、昼休みや診療後に看護師がまとめて電話をかけることになります。
- 診療時間外の留守番電話を誰かが確認しなければならない。 朝一番に録音を聞いて折り返すのが、看護師の仕事になっていることも珍しくありません。
つまり、電話の大半は医療的な判断を必要としないのに、「念のため」「手が空いていそうだから」という理由で看護師に集まっているのです。
電話対応が看護業務に与える負担
電話一本に取られる時間は短くても、影響はそれだけではありません。
処置や点滴の準備、採血といった作業は、途中で中断すると再開時に確認をやり直す必要があります。集中が途切れることは、ミスの芽にもなります。待合室の患者さんから見れば、看護師が電話口で話している間は診療の流れが止まって見えます。
もう一つ見落としがちなのが、出られなかった電話です。診療が立て込む時間帯ほど電話は鳴り、取りこぼしも増えます。新患の方がつながらずに別の医院へ予約を入れてしまえば、その機会は戻ってきません。かけ直しの手間と、つながらなかった不満の両方がクリニックに残ります。
看護師の電話対応を減らすための5つのステップ
いきなり仕組みを変える前に、まず現状を見える化しましょう。
- 一週間、電話の中身を記録する。 時刻、用件、誰が出たか、何分かかったか、折り返しが必要だったかを簡単にメモします。紙一枚で十分です。
- 用件を三つに分ける。 「誰でも答えられる」(診療時間、場所、駐車場、持ち物、予約の空き)、「受付で対応できる」(予約の変更・キャンセル、書類の受け取り)、「看護師・医師の判断が必要」(症状の相談、薬の飲み方、検査結果の扱い)の三つです。
- 最初の二つを看護師から切り離す。 よくある質問への答えを一枚にまとめ、受付や自動応答で答えられるようにします。予約はネット予約や電話受付の仕組みに任せられる部分が多いはずです。
- 折り返しの時間帯を決める。 症状の相談などは、その場で受けずに要点を聞き取って伝言にし、「本日の午後二時から二時半の間に看護師からお電話します」のように時間を伝えます。看護師はその枠でまとめて対応できます。
- 緊急時の案内を決めておく。 強い胸の痛み、呼吸が苦しいなどの訴えには、迷わず救急車を呼ぶよう案内することを全員で共有します。地域によっては救急の相談窓口もあるので、自院の地域の案内先を確認しておきましょう。
ある内科クリニックの一日(例)
医師一人、看護師二人、受付一人の内科クリニックを想像してみます。
以前の一日
- 8時45分:診療開始前から電話が続けて鳴る。受付は開院準備中で、看護師が交代で出る。ほとんどが「今日診てもらえますか」という問い合わせ。
- 10時15分:看護師が点滴の準備中に電話。内容は駐車場の場所だった。
- 12時30分:昼休み。留守番電話に入った三件と、午前中の折り返し四件に看護師がかける。昼食は後回し。
- 18時30分:診療終了後にも電話が鳴るが、誰も出られない。翌朝の確認待ちになる。
仕分けを始めた後の一日
- 8時45分:予約の問い合わせと空き状況は電話受付の仕組みが答え、そのまま予約を入れる。受付は窓口に集中できる。
- 10時15分:駐車場の質問はあらかじめ用意した案内で回答。看護師の手は止まらない。
- 11時:「昨日から熱が続いていて、受診すべきか」という電話。症状、年齢、連絡先を聞き取り、看護師への折り返しリストに入る。
- 14時:看護師が決めた時間枠で、リストの方へまとめて電話をかける。内容が事前にわかっているので、一件ずつ落ち着いて話せる。
- 18時30分:診療時間外の電話も受け付け、翌日の予約や伝言として朝には一覧になっている。
変わったのは看護師の能力ではなく、電話が看護師に届く前に仕分けられるようになったことです。
看護師が直接出るべき電話
効率化を進めても、人が、それも看護師や医師が直接対応すべき電話は必ず残ります。
- 症状の相談や受診の判断が絡むもの。 自動応答や受付が医療的な判断をしてはいけません。聞き取りと伝言までにとどめ、判断は看護師か医師が行います。
- 緊急性が疑われるもの。 救急車を呼ぶべき状況なら、その案内を最優先にします。
- 薬の副作用や飲み合わせの不安。 患者さんの状態を踏まえた説明が必要です。
- 検査結果に関する問い合わせ。 電話で伝えるかどうかは院の方針次第ですが、本人確認を含め、慎重な対応が求められます。
- ご高齢の方や、不安が強く人と話したい方。 機械的な応答がかえって不安を大きくすることもあります。いつでも人につなげる道を残しておきましょう。
避けたいやり方
- 「全部自動にすれば解決」と考える。 人につながらない仕組みは、患者さんの信頼を損ねます。
- 折り返しの時間を伝えない。 「後ほど」だけでは、患者さんは何度もかけ直してきます。
- 案内内容を更新しない。 休診日や診療時間の変更が反映されていないと、誤った案内がそのまま広がります。
- 個人情報の扱いを確認しない。 電話で聞き取る内容には健康に関わる情報が含まれます。録音や記録の保存方法、誰が閲覧できるかは、導入前に必ず確認してください。
まずは一週間の電話記録から始めましょう
電話の負担を減らす第一歩は、新しい仕組みを入れることではなく、今どんな電話が来ているのかを知ることです。一週間記録すれば、「看護師でなくても答えられる電話」がどれくらいあるのか、自院の実感として見えてきます。そのうえで、よくある質問の回答集を作り、折り返しの時間枠を決め、必要なら電話受付の仕組みを検討する、という順番で進めると無理がありません。
よくある質問
受付スタッフを増やすのと、仕組みで対応するのとではどちらがよいですか?
どちらが合うかは、電話の量と内容、予算によります。電話の多くが予約や定型的な問い合わせなら、仕組みで対応できる部分が大きいはずです。一方、窓口業務そのものが回っていないなら人の手が必要です。まずは一週間の記録で、電話の中身を確かめてから判断するのがおすすめです。
症状の相談の電話を自動応答で受けても大丈夫ですか?
自動応答が症状を判断したり、受診の要否を伝えたりするのは避けるべきです。名前、連絡先、症状の概要を聞き取って看護師の折り返しにつなぐ使い方なら、看護師の判断を妨げません。緊急性が疑われる訴えには、救急車を呼ぶよう案内する設定にしておくことが大切です。
診療時間外の電話はどう扱えばよいですか?
休診日や夜間は、診療時間と予約方法を案内し、伝言を受け付けるのが基本です。急な症状については、救急車や地域の救急相談窓口を案内できるようにしておきます。翌朝には伝言の一覧が手元にあれば、看護師が留守番電話を一件ずつ聞き直す手間が省けます。
ご高齢の患者さんは自動応答を嫌がりませんか?
戸惑う方がいるのは確かです。応答はゆっくり、はっきりした言葉にし、いつでも人に代われる、または折り返しを依頼できる選択肢を残しておくことが大切です。かかりつけの患者さんには、窓口で電話受付の変更を一言伝えておくだけでも、受け止め方はかなり変わります。
Ringhumは、クリニックにかかってくる電話を24時間受け、予約の受付や変更、診療時間などのよくある質問への回答、伝言の聞き取りを行うAI電話受付です。医療的な判断はせず、症状の相談は看護師への折り返しとしてまとめ、緊急時は救急への連絡を案内します。設定や運用についてはヘルプセンター、費用は料金ページでご確認いただけます。