朝の受付が始まると、待合室の患者さんへの声かけ、保険証の確認、会計が同時に進みます。その最中に電話が鳴ります。予約の変更、「熱があるけど今日診てもらえますか」という問い合わせ、検査結果の確認。出られなければ、患者さんはもう一度かけ直すか、別の医院を探します。
クリニックの電話対応マニュアルは、こうした場面で誰が受話器を取っても同じ品質で答えられるようにするためのものです。新人スタッフでも迷わないこと、医療機関として言ってはいけないことを守れること、緊急性の高い電話を見逃さないこと。この三つが押さえられていれば、分厚い冊子にする必要はありません。
この記事では、マニュアルに入れるべき項目と例文、受付での一日の流れ、作り方の手順、そして必ず人が対応すべき電話の線引きを、実務に沿って整理します。
受付の電話で何が起きているのか
クリニックにかかってくる電話の多くは、実は似た内容の繰り返しです。診療時間、休診日、予約の取り方や変更、駐車場の有無、持ち物、予防接種や健診の受付状況。どれも答えは決まっているのに、スタッフごとに言い方が違ったり、確認漏れがあったりすると、後で「聞いていた話と違う」というトラブルになります。
一方で、ごく一部の電話には慎重な判断が必要です。症状の重さを伝えてくる電話、薬の飲み方の相談、家族の検査結果を聞きたいという電話などです。マニュアルの役割は、定型の電話を素早く正確にさばき、判断が必要な電話を確実に医師や看護師へつなぐことにあります。
電話に出られないこと自体も負担になります。かけ直しが増えれば受付の手はさらに埋まり、つながらない印象が口コミや評判に影響することもあります。診療の質とは別のところで、医院の印象が電話で決まってしまうのです。
クリニックの電話対応マニュアルに入れるべき項目
第一声と名乗り方
「お電話ありがとうございます。〇〇クリニック受付の△△です」のように、医院名と担当者を必ず名乗ります。混雑時でも省略しないよう、一文で固定しておくのがコツです。
用件別の対応表
予約、予約変更・キャンセル、診療時間の問い合わせ、症状の相談、検査結果、薬の相談、業者からの電話。用件ごとに「受付で答えてよいこと」「聞き取る項目」「つなぐ先」を表にまとめます。
予約を受けるときの聞き取り項目
氏名(フリガナ)、生年月日、電話番号、初診か再診か、希望日時、受診理由の概要。最後に日時を復唱し、持ち物(保険証、お薬手帳、紹介状など)を伝えます。マイナ保険証の扱いなど、医院の方針によって案内が変わる点もここに書いておきます。
症状の相談への答え方
受付スタッフは診断や受診の必要性を判断しない、という原則を明記します。例文は「症状については医師または看護師から折り返しご連絡します」「ご心配でしたら診療時間内にお越しください」など。具体的な病名や「大丈夫だと思います」といった言葉は使わないと決めておきます。
個人情報の扱い
電話口では本人確認が難しいため、検査結果や受診歴は原則として電話で伝えない、伝える場合は医院の決めた本人確認の手順に従う、と書きます。家族や勤務先からの問い合わせへの対応も、医院の方針として統一しておきましょう。
緊急時の対応
「息が苦しい」「意識がおかしい」「胸が痛い」など、すぐに救急車を呼ぶべき言葉を一覧にし、その場合は119番への通報を勧めるよう明記します。地域によっては救急相談の窓口が設けられているので、自院の地域の窓口を確認して載せておくと安心です。
折り返しと伝言のルール
誰に、何を、いつまでに折り返すのか。伝言メモの書式(日時、氏名、連絡先、用件、緊急度)を決め、受け取った人がどこに置くかまで決めておくと、伝言の行方不明が減ります。
例:ある内科クリニックの一日
住宅街にある、医師一人と受付二人の内科クリニックを想像してみてください。
- 8時45分 開院前から電話が鳴ります。「今日は何時からですか」。対応表どおり診療時間を案内し、予約が必要かどうかも伝えます。
- 9時20分 受付は会計と問診票の対応で手一杯。予約変更の電話に出たスタッフは、聞き取り項目を見ながら氏名と生年月日を確認し、新しい日時を復唱して終了。迷いがないので通話は短く済みます。
- 10時10分 「子どもが熱を出していて、ぐったりしている」という電話。スタッフは自分で判断せず、マニュアルに沿って看護師へつなぎます。看護師が状況を聞き、来院の時間を調整しました。
- 12時30分 昼休み。留守番電話に切り替えた間に数件の着信。午後の開始前に伝言を確認し、折り返しリストに記入します。
- 15時 「母の血液検査の結果を教えてほしい」という電話。個人情報のルールに従い、電話では伝えられないこと、本人の来院か医院の定める手続きが必要なことを丁寧に説明します。
- 18時40分 診療終了後の電話。翌日の予約希望だったため、留守番電話の案内を聞いた患者さんが翌朝かけ直してきました。
この一日で判断が必要だったのは、熱の相談と検査結果の二件だけです。残りは、マニュアルがあれば誰でも同じように答えられる電話でした。
電話対応マニュアルを作る手順
- 一〜二週間、電話の内容を記録する 用件、時間帯、対応にかかった手間を簡単にメモします。どの電話が多いかが見えてきます。
- 用件を分類する 「受付で完結する」「医師・看護師へつなぐ」「折り返す」「救急を勧める」の四つに分けます。
- よく聞かれる質問の答えを一文で書く 診療時間、休診日、駐車場、予約方法、持ち物など。誰が読んでも同じ言い方になるように短くします。
- 医師と線引きを確認する 受付が答えてよい範囲、つなぐべき症状の言葉は、必ず院長や看護師と一緒に決めます。
- 例文と聞き取り項目を一枚にまとめる 電話のそばに置ける量にします。詳細は別紙でかまいません。
- ロールプレイで試す スタッフ同士で患者役をやってみると、言いにくい表現や抜けている質問が見つかります。
- 定期的に見直す 診療時間の変更、新しい検査や予防接種の開始、休診日の追加などがあれば、その都度更新します。
避けたい電話対応
- 症状について自己判断で答える 「それくらいなら様子を見ても」といった一言は、善意でも避けます。
- 保留を長くする 確認に時間がかかるときは、一度戻って「折り返しでもよろしいですか」と聞くほうが親切です。
- 復唱しない 予約日時や電話番号の聞き間違いは、来院時のトラブルの元になります。
- 本人確認なしに情報を伝える 家族を名乗る電話でも、医院のルールに従います。
- 人によって答えが違う マニュアルの目的そのものが崩れます。決まっていないことは「確認して折り返します」と統一しましょう。
人が必ず対応すべき電話
電話の一次対応を仕組みで支えるとしても、次の電話は必ず人が受けるべきです。
- 緊急性が疑われる症状の訴え
- 薬の副作用や飲み合わせなど、医学的な判断が要る相談
- 検査結果や診断内容に関する問い合わせ
- 苦情や、患者さんが強い不安や怒りを抱えている電話
- 他の医療機関や薬局からの連絡
逆に、診療時間の案内、予約の受付や変更、伝言の受け取り、よくある質問への回答は、定型化しやすく仕組みに任せやすい部分です。たとえばRinghumのようなAI電話受付は、こうした定型の電話を時間外も含めて受け、判断が必要な電話はスタッフへの伝言や折り返しにつなぐ使い方に向いています。症状の判断をAIに任せるものではない、という線引きは最初にはっきりさせておきましょう。
まとめ:まず一枚の対応表から
完璧なマニュアルを最初から作る必要はありません。今週から電話の内容を記録し、よくある質問への答えと「つなぐべき電話」の一覧を一枚の紙にまとめる。それだけで、受付の迷いと患者さんの待ち時間は目に見えて変わります。医師と線引きを確認したら、スタッフ全員で読み合わせ、診療時間や方針が変わるたびに更新していきましょう。
昼休みや時間外の電話まで手が回らない場合は、留守番電話の案内を見直すか、電話の一次対応を外部の仕組みに任せることも選択肢になります。
よくある質問
電話対応マニュアルはどのくらいの量が適切ですか?
電話のそばに置いてすぐ見られる、一〜二枚の対応表が中心で十分です。第一声、用件別の対応、予約の聞き取り項目、つなぐべき電話の一覧、緊急時の案内を載せ、詳しい説明や例外は別紙にまとめます。分厚いと忙しい時間帯に開かれなくなるため、見やすさを優先しましょう。
受付が症状の相談を受けたらどう答えればいいですか?
受付スタッフは受診の必要性や病名を判断せず、医師や看護師につなぐか折り返しを約束するのが基本です。「症状については看護師から折り返しご連絡します」のような決まった言い方を用意しておくと迷いません。息苦しさや意識の異常など緊急性が疑われる場合は、119番への通報を勧めます。
家族から検査結果を聞かれたら伝えてもいいですか?
電話では相手が本当に本人や家族か確認しにくいため、原則として電話では伝えない医院が多いです。伝えるかどうか、どの手順で本人確認するかは医院の方針として院長と決め、マニュアルに明記してください。スタッフが個別に判断しない形にしておくことが大切です。
昼休みや診療時間外の電話はどうすればいいですか?
留守番電話で診療時間と再開時刻を案内し、緊急時は救急への相談を促すのが一般的です。伝言を受ける場合は、誰がいつ確認して折り返すかを決めておきます。予約受付や伝言の聞き取りをAI電話受付に任せる方法もありますが、医学的な判断は必ずスタッフが行う前提で使いましょう。
Ringhumは、クリニックの診療時間の案内、予約の受付や変更、伝言の聞き取りといった定型の電話を、診療中や時間外も含めて受けるAI電話受付です。症状の判断や検査結果の説明はできないため、そうした電話はスタッフへの伝言や折り返しとして引き継ぎます。設定の流れはヘルプセンターで、費用は料金ページで確認できます。